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3・放っておけない人…… Page11

last update Huling Na-update: 2025-03-06 12:40:35

「――あっ! 『好き』っていうのはそういう意味じゃなくてっ! 嫌いか好きかでいうところの『好き』っていう意味でっ!」

「ああ、なんだ。そういう意味ですか……。ビックリしましたよー」

 〝ビックリした〟とか関西寄りのイントネーションで(それはもういいか)言うわりには、少なからずショックを受けている様子の原口さん。……ちょっと待って! ショックを受けたってことは、さっきの「好き」を私からの告白と解釈したかもしれないってこと!?

 ああ、否定しない方がよかったのかなあ。――いやいや! そんなことないよね。

 酔い潰れてる時にされた告白なんて、酔いから醒めれば忘れられてしまうから。記憶に残らない告白なんて、しても惨(みじ)めなだけだ。告白するなら彼が素面(シラフ)の時に、ちゃんと記憶に残る形でしなきゃ意味がない。

 ――そういえばさっきから、話が脱線しまくっている気がする。

「……えーっと、話戻しますけど。私ね、潤とのことがあってから、『現実の恋愛って面倒だなー』って思い始めたんです。小説っていいよなーって。だって、紙の上にどんな恋愛を書いたって誰にも迷惑かけないから」

 決して現実逃避(とうひ)をしたくて小説を書いているわけじゃないけれど……。

「じゃあ今、先生は現実で好きな人いないんですか? べっぴんさんやのに勿体(もったい)ない」

 ……原口さんよ、どうしてそこでまた関西弁になる? ――あーあ、こりゃ相当潰れてきてるな。

 というか、「べっぴんさん」なんて……。同性の琴音先生に言われた時は照れ臭いだけだったけれど、やっぱり好きな人に言われると嬉しいな。たとえ酔った勢いで、明日になって彼が覚えていなかったとしても。

「そんな、べっぴんさんさんなんて! ……えっと、恋愛っていうか好きな人はいますよ。多分まだ片想いですけど」

 それがあなたです、とは言わないけれど。私は正直に答えた。

「そうですか」

 原口さんはそれだけしか言わなかった。

 ……まあ、こんな状態になった彼が何を思い、私の言葉をどう捉(とら)えたかなんて分かるはずもないのだけれど――。

「はい、そうです」

 ねえ、原口さん。今度この言葉を伝える時は、こんな遠回しな言い方じゃなくてもっとハッキリ分かりやすく伝えるから。心の準備をしておいてね。――そういう意味を込めた眼差(まなざ)しを彼に送り、私は頷き返した。
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  • シャープペンシルより愛をこめて。   3・放っておけない人…… Page12

    「――っていうか、原口さん。あなた、夕方に来た時よりスッキリした表情(かお)してますよ」「えっ、そうですか? 先生が話聞いて下さったおかげさんですね。ありがとうございます」「いえいえ! 私は何も!」 むしろ出すぎたマネをしようとしたんですけど。これで感謝されていいんですか、私? ――何はともあれ、お酒ですっかりでき上っちゃってるとはいえ、原口さんが上機嫌(きげん)になってくれて、私はホッとした。   * * * * ――テーブルの上のおつまみも乾(かわ)きものだけになり、六本あった徳用缶チューハイも残り二本になった頃。時刻は夜の九時半過ぎ。「原口さん! そんな酔い潰れちゃって大丈夫なんですか!? ちゃんと帰れますか!?」 彼はアルコールに相当弱いらしい。三時間以上も飲み続けていたら、もうベロンベロンになってしまっていた。下戸だとは聞いていたけれど、こんなに前後不覚(ふかく)になるまで酔っ払ってしまうとは!「はぁ~い、俺はダイジョ~ブです~。ぜ~ん然酔っ払ってなんかいまへ~んよ~~」「……ダメだこりゃ」 完全に酔っ払いですがな。呂律回ってないわ、関西弁になってるわ。 とどのつまりは、一人称が「俺」。――彼が「俺」って言うのは怒っている時だと思っていたけれど、「酔うと〝素〟が出る」って聞いたからやっぱりこっちが彼の素なんだろう。……それはともかく。「原口さん、全然大丈夫じゃないじゃないですか! 電車通勤でしょ!? 駅に着くまでに事故にでも遭(あ)われたら私が困るんで!」 このまま寝てしまったら、彼はどちらにせよ今日は帰れなくなってしまう。終電は確実に逃(のが)すだろうし、タクシーに乗っても行き先をちゃんと運転手さんに伝えられるかどうか怪しいところだ。 ……と引き止めてみたところで、どうしたものか? 考え抜いた末(すえ)に出た答えは一つしかなかった。それはあまりにも大胆な提案だったのだけれど。「原口さん、今夜はウチに泊まっていって下さい」「…………へっ? なんですってぇぇぇ!?」 一瞬キョトンとした後、原口さんが思いっきり取り乱した。彼の酔いは、さっきの私の発言で少し醒めたことだろう。……多分。 私は別に、男の人をこの部屋に泊めることには何の抵抗(ていこう)もないのだけれど。彼にとってはそのこと自体が衝撃(しょうげき)的だったのだろう

    Huling Na-update : 2025-03-06
  • シャープペンシルより愛をこめて。   3・放っておけない人…… Page13

    「そそそ、そんな! 独身女性の部屋に男が泊まるやなんてとんでもないっ! 何か間違いがあったらどうするんですか!?」 彼は大まじめに抗議するけれど。酔い潰れた状態で言われても説得力は半分以下だ。「間違いって?」「いや、だからそそその……何や。俺が先生の寝込み襲(おそ)ったりとか、アレするとか」 〝アレする〟とはつまり、一線を越えてしまうことを言いたいらしい。「先生はそれでもええんですか!?」「それは……えっと」 私にそういう願望がないのかと訊かれれば答えは「ノー」なのだけれど。――まあ、相手は自分の想い人だし? でも、今この段階で、酔いで我を忘れている原口さんを相手にそれはない。「……って、それどころじゃないでしょ!? 今晩『泊まって』言ったのは、ただの親切心からだけですから! 下心(したごころ)なんてないですからね!?」 ……そう。ただ単に、この酔っ払いと化(か)した彼を放っておけないだけ。決して、彼が前後不覚なのをいいことに誘惑してしまおうなんて気は、私にはさらさらないのだ。「……ホンマですかぁ? それ」「ホントですってば!」 ジト目でしつこく訊かれ、私はムキになって答える。……いつもの私と原口さんとのやり取り。アルコールが入っているせいか、ヘンに意識しすぎることなく自然に接することができている。――それにしても、私はさっきまでの彼の取り乱しっぷりが気になる。「泊まっていって」と言っただけなのに、あの慌てようは……。どうも女性経験がないわけではなさそうだけれど。 だって、彼はイケメンだし長身だし(身長百五十センチ台半ばの私より二十センチは高いはず)、昔は彼女もいたらしいから、今だって女性が放っておかないと思う。 酔い潰れると前後不覚になるところなんかは手がかかるというか、母性本能をくすぐられるというか。そういうところも放っておけないし。 ……ただ、彼にはSっ気があるから、女性が彼の扱いに困るかもしれないとも思う。 できれば、原口さんが今フリーでありますように。そして――、琴音先生とも何もありませんように! 琴音先生(あの人)がライバルだったら、私はきっと敵(かな)わないから――。

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  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page1

     ――何はともあれ、私は原口さんを今晩一晩だけ、私のマンションに泊めてあげることにした。とはいえ、ここは単身向けの物件。私が仕事部屋(兼寝室)として使っている部屋以外に、「部屋」と呼べる場所はない。「えーっと、寝る場所はどうしましょう? 私の部屋かリビングのソファーしかないんですけど……」 できることなら、ソファーはあまりお勧(すす)めしたくない。ウチのソファーはなかなか寝(ね)心地(ごこち)が悪い。私も何度かここで寝る羽目(はめ)になったことがあるからよく知っているけれど。朝起きた時、必ずと言っていいほど首が痛くなっているのだ。「私の部屋で寝ます? 床(ゆか)にお布団(ふとん)敷いて」 確か、納戸(なんど)に予備の布団が一組あったはずだ。ソファーよりはいくらかマシだと思う。「ええ~、床ですか……?」「床がイヤなら、ソファーか私のベッドで一緒に寝てもらうことになりますけど?」 不服そうな(……なのかどうかは定かじゃないけど)原口さんに、私はイタズラっぽく言ってみた。「い……っ、いやいやいや! ダメですよ、そんなん! 一緒の部屋で寝るだけでもダメですって!」 原口さんの顔がさっきより真っ赤になる。関西弁が抜けていないところを見るに、まだ酔っているには違いないだろうけど。これはどうもそれだけじゃないように見える。 ……もしかして照れてるの? そうだとしたら、ちょっと可愛いかも。「僕はソファーで寝ますから! 一緒の部屋で寝るのだけはカンベンして下さいよー」 そんなに拝(おが)み倒すほど、私と同じ部屋で寝るのが苦痛なの? 冗談(じょうだん)で言っただけなのにちょっと傷付く。「……分かりました。冗談ですって。――じゃあ、納戸から毛布か何か持ってきます。クッションを枕代わりにしてもらえば」「何から何まで、ホンマにすんません。一晩お世話んなります」「いいええ」 私は謝り倒す原口さんにニッコリ笑顔で応じ、彼がソファーで寝るための準備にとりかかった。酔っ払いを外に放り出すほど私は鬼(オニ)じゃない。ましてや、好きな人ならなおさら。 ――準備が整(ととの)うと、彼はジャケット脱いでゴロンとソファーに横になった。「じゃ、明(あ)かり消しますね。原口さん、おやすみなさい」「ふぁ~い……」 窮屈そうに背中を丸め(そうしないと、長身の彼は足がはみ出して

    Huling Na-update : 2025-03-06
  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page2

     クローゼットから着替えとバスタオルを出して、眠っている原口さんを起こさないようにリビングを横切り、バスルームに向かう。一応脱衣スペースもあるし、スライドドアで隔(へだ)てられてはいるけれど。男性(それも彼氏じゃないけど好きな人)がそのドアの向こうで寝ている中で裸になるのはちょっと勇気がいる。 ――ほんの少しだけ抵抗を感じながらも服を脱ぎ、シャワーを浴びてサッパリしてから部屋着を着て、髪をドライヤーで乾(かわ)かして部屋に戻る。 でもベッドには入らず、向かったのは仕事スペースの机。……の上にある、白いノートパソコン。 以前、原口さんに話した〝バイトのためのパソコンの練習〟は、今や毎晩の日課になっている。本業である執筆の仕事がない時はもちろんだけど、本業の合間にも少しずつだけでも続けている。 Word(ワード)を起動させ、指をポキポキ鳴らしてからキーボードを叩き始めた。右手一本でならどうにできるようになったタイピングだけれど、左手の指まで動かそうとすると、どうにも思うように動いてくれなくて困る。 そして、キーボードと格闘(かくとう)すること約一時間ほど――。「あ~もう! また指つった! どうしてここで指もつれるかなぁ!? あ、そこ違う!」 変換を間違えたり、別のキーを押してしまったりして、一人でボヤき続けていると。「――先生? パソコンの特訓してたんですか?」「はい、……ってうわっ! 原口さんっ、いつの間に!?」 後ろから声がして、振り返った私は思わず飛び上がりそうになった。「えーっと、十分くらい前から? あまりにも真剣(しんけん)そうだったんで、おジャマしちゃ悪いかな、と思って声かけなかったんです」 ……十分前!? ということは、私のボヤきを全部聞かれていたってことだ……。「ゴメンなさい。私のボヤき、うるさくて目覚(さ)めちゃいました? それとも部屋の照明が眩(まぶ)しかったとか?」 彼が目を覚ました理由がそのどちらかだったら、どちらにしても私のせいだ。……けれど。「いえ、先生のせいじゃないです。たまたま喉(のど)が渇(かわ)いて目が覚めただけですから」「……あー、そうなんですね」 そりゃ、下戸なのにあれだけアルコールを摂(と)ったら喉も渇くでしょうよ。「それじゃ、何か飲み物淹(い)れてきますから。リビングで待ってて下さい」 

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  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page3

    「――はい、どうぞ」「ああ、すみません。頂きます」 グラスを受け取った原口さんは、よっぽど喉が渇いていたのか、一気にグビグビと半分くらい飲んでしまった。「――そういえば先生。僕、酔っ払ってる間の記憶がほとんどないんですけど。先生に何か失礼なこと言ってませんでした?」 一度グラスを置いた彼は、決まり悪そうに私に訊ねる。彼にしてみれば、記憶がなくなるほど酔ってしまったこと自体、私に対して失礼だと思っているんだろう。「いえ、失礼なことなんて何も……。ただ、バリバリ関西弁にはなってましたけど」 私はそう答えてから、フフフッと笑った。 そして失礼ではない(むしろ私は嬉しい)けど、彼は私のことを「べっぴんさん」とも言ってくれた。でも本人は覚えていないようなので、これは私の胸の内だけに収(おさ)めておこう。「そうですか……。またやっちまった……」 はぁ~っとため息をつき、原口さんはガックリとうなだれた。余談(よだん)だけれど、彼の関西弁はすっかり抜けて標準語に戻っている。もうすっかり酔いは醒めているらしい。「先生も、引きました? 僕の関西弁」「引きません。ってさっきも言いました」「……はあ」 彼はそれも覚えていないらしい。「ねえ原口さん。酔い始めてからどのあたりまで覚えてますか?」 原口さんは小首を傾げ、必死に自分の記憶を辿り始めた。「えーーっと……、確か、先生と井上さんがどうして別れたのかというあたりまでは」「はあ、そうですか……。なるほどね」 私は納得(なっとく)した。私の記憶でも、確か彼はその話の途中から関西弁になっていたように思うから。 じゃあ、その後に私が「原口さんの関西弁は好き」って言ったことも、彼は覚えていないのか……。――私も麦茶に口をつけた。「私ね、その時に言ったんですよ。『原口さんの関西弁は引かない。むしろ好きだ』って。――覚えてないならいいです」 誤解のないように、〝好き〟は嫌いか好きかの〝好き〟だと補足することも忘れない。「そういう意味の〝好き〟だったら、僕にもありますよ」「……え?」 原口さん、それはどういう意味? ――私は彼の次の言葉を待った。「先生が直筆で書かれる小説、僕は大好きなんです。編集者の役得(やくとく)ですよね、これって」「ああー……」 そっちか。そっちね。――私はちょっとだけ肩を落と

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  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page4

    「内容はもちろんですけど、先生の原稿そのものから勢いというか、パワーみたいなものを感じるんです。『書くのが楽しい!』っていうのがガツンと伝わってくる」「へぇー、そうですか……。それはどうも」 彼の熱弁には若干(じゃっかん)引いたけど、正直私は嬉しかった。私の小説を一番愛してくれているのは原口さん。――それが本当だったんだと分かったから。 たとえ私自身のことを「好き」って言ってくれたんじゃなくても、好きな人の口からその言葉が出ただけで嬉しいやら照れ臭いやらでなんかむず痒(がゆ)い。「でも、パソコンの練習してるってあれ、本当だったんですね」「はい。……って、信じてなかったの!?」 私は思わず飲んでいた麦茶を噴(ふ)きそうになった。敬語も抜けちゃったけど、今はそれどころじゃない!「信じてましたけど。執筆のためにじゃないなら、僕はタッチすべきじゃないかと思ったんで」「…………」 これを優しさと取るか、冷たく突き放(はな)されたと取るか。私は反応に困った。「編集者としてはやっぱり、うるさく言うべきなんでしょうね。作家の将来のためだ、って。――でも、僕個人としては、先生には今のままでいてほしいんです」 今のまま。――背伸びせず、ムリをしないで、ってことなのかな?「だから、アルバイトのためにパソコンの練習をしてると聞いて、先生がムリなさってるんじゃないかと思って心配だったんです」「〝心配〟って……。でも、私にとっては必要なことなんです」 私はつい、原口さんにグチっていた。「私、まだパソコンに慣れてないからバイト先でいつも周りの人に迷惑かけてるんです。今日だって、お客様にお時間取らせちゃったし」「そうですか……。それで今日、ちょっと元気がなかったんですね」「えっ、気づいてたんですか?」 私は心底(しんそこ)驚(おどろ)いた。――この人、私のことをよく見てるなあ。まだ二年ちょっとの付き合いなのに、私のほんの些細(ささい)な変化も見逃(のが)さないなんて……。「はい。先生ほど表情がコロコロ変わる人はいませんから」「ああ……、そういうことか」 やっぱり私って分かりやすいらしい。 ちなみに今、このリビングはナツメ球の灯りだけで薄暗(うすぐら)いので、きっと彼には見えていない。一緒に麦茶を飲んでいるこの十数分間にもコロコロ変化していた私の表情が。

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  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page5

    「……で! 話戻しますけど、私が夜(よ)な夜なパソコンの練習をしてるのは、店長やバイト仲間に迷惑をかけないようになりたいからなんです。アルバイトだって、仕事である以上いい加減な気持ちでやりたくな……っクシュンっ!」 言い終わらないうちに、私は盛大なくしゃみをしてしまった。……やば、湯冷(ざ)めしたかな?「大丈夫ですか?」「あー、はい。さっきシャワー浴びたから、ちょっと冷えたかなーって。――あっ、大丈夫です! 私、これくらいじゃ風邪引きませんから」「……そう言われても、心配になりますよ。湯上がりにそんな短パン姿でいられたら」「はうっ!?」 私の心臓が跳(は)ねた。どうしてこの人、この薄暗い中でそんなことまで分かっちゃうの!? ――まあ、「湯上がり」ってことは、シャンプーやボディーソープの香りで分かったんだろうけど(私自身も言ったし)。短パン穿(は)いてることまでは分からないと思ったのに。「原口さんっ!? み……み……見えてるんですか!?」 まさかネコじゃあるまいし、と心の中でセルフツッコミを入れたけれど。「えっ、本当に穿いてるんですか?」「はあ?」 なんだ、ただカマをかけられただけか。「見えてませんよ。見えてたら、僕は平常心を保(たも)っていられなくなります」「…………えっ?」 私は目をしばたたかせる。――それはつまり、理性が利(き)かなくなるってことだろうか?「僕も一応その……、男なんで」 もしかして原口さん,赤くなってる? 薄暗くて見えないのが残念。 そういえば、琴音先生にもこないだ言われたっけなあ。『ナミちゃんだって十分可愛いし魅力的よ』って。自分ではあんまり自信なかったけど……。 ――それにしても、このシチュエーションってなんか……アレじゃない? 薄暗い部屋に、男女二人っきり。映画とか小説とかだと、この流れでキスとかまで行っちゃいそうな感じなんだけど……。「――巻田先生」「はっ、ハイっ!」 唐突に名前を呼ばれ、私の心臓がまた跳ねた。と同時に、ついつい期待してしまう。 原口さんは一体、どんなふうに私にキスしてくれるんだろう、って。――まだ付き合っているわけでもないのに……。 ――ところが。「明日、バイトは? 日曜ですけど」「…………へ? ああ、あの。出勤です」 そんな私に彼から投げかけられたのは、何とも色気の

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  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page6

     再びソファーに横になった原口さんに毛布をかけてあげると、私は自分が使っていた分のグラスもお盆に載せてキッチンの流しまで持っていき、キチンと洗いものを片付けてから部屋に戻った。 時刻は十一時半。ベッドに潜(もぐ)り込んだけれど、ドキドキしていてなかなか寝付けない。 ――さっきは期待して損した。でも……、彼は優しくて真面目(マジメ)な人だ。 酔い潰れていても、決して狼(おおかみ)にはならなかった。むしろ、「泊まるなんてとんでもないです!」と遠慮していたほど、彼は紳士(ジェントルマン)だ。 彼ならきっと、恋人になっても私のことを大事にしてくれる。潤(アイツ)みたいに非情(ひじょう)な選択を迫ったりしないだろう。「……あー、明日もバイトだ。早く寝なきゃいけないのに……」 何度か寝返りを打っているうちに、すっかり疲れ切っていた私はいつの間にかストンと眠りに落ちていた――。   * * * * ――翌朝。熟睡というほどの熟睡はできなかったけれど、私は何とか朝七時に目を覚(さ)ました。 それは決して、リビングで眠っていた原口さんのイビキがうるさかったから……ではなく。「好きな人が一つ屋根の下にいる」という状況と二年も離れていたから、久々に味わうスリリングな夜に馴染(なじ)めなかったせいである。 ただ、私は基本的に朝には強い(ただし、締め切り明けには必ず撃沈(げきちん)している)。バイトの出勤日には、たとえ前の夜にお酒を飲んでいてもちゃんと朝早く起きられるのだ。 洗顔と身支度を済ませ、今いるのはキッチン。二日酔いになっているだろう原口さんのために、私の朝ゴハンも兼ねてシジミ入りのお味噌汁を作っているところだ。「――うん、上出来」 味見をして、会心の出来に満足して頷く。ちゃんとお出汁(だし)がきいていて、お味噌の味も濃(こ)すぎず薄すぎずちょうどいい。 キッチンからは、原口さんが寝ているリビングが丸見えだ。 ここまで来る時、私は彼を起こさないよう細心(さいしん)の注意を払った。……まあどのみち、二日酔いで撃沈している彼のことだから、そう簡単に目を覚まさないとは思うけれど。 ――余談だけれど、サラリーマンである私の父もお酒に弱くて、母がよく二日酔いの父のためにこうしてシジミ汁を作ってあげている。……多分、今も。 アルコールが苦手でもお酒の席には付き

    Huling Na-update : 2025-03-06

Pinakabagong kabanata

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page8

    「原口さんだって、もうちょっと広い部屋の方が落ち着けるでしょ? ベッドだって狭いし」「だったら、ベッドだけシングルからセミダブルに変えたらいいんじゃないですか?」 彼の提案は身もフタもない。せっかく「あなたの部屋の近くに引っ越したい」って言うつもりだったのに。「ここの寝室は狭いから、セミは置けないんです。だからどっちみち引っ越すことになるの。……まあ、狭いベッドの方が、ベッタリくっついていられるから私もいいんですけど」「そっ……、そういう意味で言ったんじゃ………」 ちょっと意味深な視線を送ると、彼は真っ赤になって慌てた。私より恋愛慣れしているわりには、結構ピュアだったりするのだ。「冗談ですって。でも、引っ越すなら赤坂の方の物件がいいな。原口さんのお部屋の近く」「え……」「その時は、お手伝いよろしく☆」「…………はい」 私の方が年下なのに、彼は腰が低いというか、立場が弱いというか……。私に何か頼まれると、「イヤです」とは言いにくいらしい。話し方だって、未だに敬語が抜けないし。 しばらく話し込んでいたら、マグカップに入っていたミルクティーはもうほとんど飲み終えつつあった。私は彼の肩にそっと頭をもたげる。「――あ、そういえば美加が、『いつ結婚式の予約入れてくれるの?』って言ってたんですけど」「美加さんって……、こないだ取材させて頂いたウェディングプランナーのお友達ですか?」

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page7

     ――私と原口さんが代々木のにある私のマンションに着いたのは、それから三十分後のことだった。 ちょっと空(す)いていた電車の中では、二人で隣り合って座席に座ることができた。そこで私達が話していたのは今書いている原稿の進み具合とか、「入った印税をどう使うのか」とか、そんなことだった。「――どうぞ、上がって下さい。コーヒーか何か淹れましょうか?」 私は彼に来客用スリッパを出してから、リビングのソファーにバッグを置いた。「じゃ、紅茶がいいなあ。ミルクティーで」「はーい。私の分も用意するんで、ちょっと待ってて下さいね」 ソファーに腰を下ろした彼のオーダーを聞き、私はキッチンに足を向けた。備え付けの食器棚からマグカップと紅茶のティーバッグを二つずつ出して、水をいっぱいにした電気ケトルのスイッチを押す。 カップのセッティングをしてから、「お茶うけもあった方がいいかな」と思った。――お菓子、何か入ってたっけ? あっ、確かチョコチップクッキーが残っていたはず……。「――お待たせ!」 数分後、私は二人分のミルクティーのマグカップとクッキーの載(の)ったお皿をお盆に載せ、リビングに戻った。「ありがとうございます。……あ、クッキーも? さすが先生、気が利(き)くなあ」 原口さんはお礼を言ってカップを受け取ったけれど。……ん? 「気が利く」ってどういう意味? いつもは気が利かないって遠回しに言っているのか、それとも女性らしい気配りができているっていう褒め言葉なのか……。解釈が難しいところだ。何せ、彼はS入ってるからなあ。「そんなに悩まなくても……。素直な褒め言葉ですから」 首を傾げている私に、苦笑いしながら彼はフォローを入れた。「ああ、そうなんですね。……別に、何かお茶うけがあった方がいいかなーと思っただけです」 ……本当に、私って可愛くない。褒められても素直に喜べなくて、こんな憎まれ口叩いて。「いただきます」 一人しょげている私をよそに、彼はおいしそうにミルクティーをすすり、お皿の上のクッキーをつまむ。下手に慰めようとしないのは、彼なりの優しさなのだろう。今の私には、その方がありがたい。それとも、ただマイペースなだけなのか……。「――それにしても、この部屋って狭いですよね。ぼちぼち引っ越そうかな」「えっ、引っ越すんですか?」 私も紅茶をすすりな

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page6

    「ね? 可愛げないでしょ?」 私が同意を求めると、彼はそれを力いっぱい否定した。「いえいえ、そんなことないですよ! 先生はご自分で思ってるよりずっと可愛いし、魅力的な女性です」「……はあ、それはどうも」 そのあまりの熱弁ぶりに、私は目を丸くした。彼の私への想いはそんなに強いのかと、改めて気づかされる。「…………すみません、ついアツくなっちゃって。でも、先生は十分(じゅうぶん)女性としての色気はあるのに無防備すぎるんです」「えっ、どんなところが?」 私って自覚なさすぎるんだろうか? それじゃあ、付き合う前から私は気づかないうちに、彼を惑(まど)わせていたかもしれないってこと……?「ある朝原稿を受け取りに行ったら、ショートパンツ姿でナマ足出してるし。酔っ払って泊めてもらった夜には、至近距離(しきんきょり)でシャンプーのいい香りさせてるし。こっちは理性保(たも)つのが大変だったんですから」「うう……っ!」 思い当たるフシがいっぱいありすぎて、私は思わず両手で顔を覆(おお)った。当たり前だけれど、やっぱり原口さん(この人)も成人男性だったんだ。私の悩ましい姿の数々(かずかず)を目にしながら、一人悶絶(もんぜつ)していたなんて。「……手、出そうとは思わなかったんですか?」 恥を忍んで、私は訊いてみる。我慢するくらいなら、いっそ触れてくれればよかったのに。「出せるワケないでしょ? 自分の欲求に任せて手を出したら変質者とおんなじです。そんなマネ、俺はできませんっ!」 鼻息も荒く、原口さんが吠えた。そして、彼が〝俺〟って言うの、久しぶりに聞いた。 どうでもいいけど、ここは駅のホームで周りには人がいっぱいいる。さっきの原口さんのシャウトに驚いた人達が、なんだなんだとこっちを見ているので,私は今かなり恥ずかしい。「……分かりました! っていうか原口さん、声大きいから! エキサイトしすぎ!」 小声でたしなめると、彼はやっと我に返った。「はっ……!? あ……、スミマセン」 恥ずかしさで顔を赤らめ、神妙に縮こまる彼。なんだかおかしかった。私は思わずククッと笑い出してしまう。「……え? なんかおかしいですか?」「ううん、別にっ!」 そう言いながらも完全にツボった私の笑いはなかなか治まらず、私は彼のいない方を向いて声を殺して笑い続けた。彼もムッとするど

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page5

    「……まあ、いいですけど。明日も仕事休みですし」 明日は日曜日。いわゆる〝会社員〟である原口さんはお休みだ。「ナミ先生は、お仕事は? 書店さんの方の」 彼は担当編集者なので、私の作家としての方の仕事はもちろん把握(はあく)している。今は、ウェディングプランナーとして働いている友達・美加をモデルにした新作の小説を執筆中だ。 でも、もう一つの仕事である〈きよづか書店〉でのバイトのスケジュールまでは訊かない。デートの約束をする時だって、私からしか話さない。「私は明日出勤日ですけど。もし私の出勤時間に起きられなかったら、原口さんは寝てていいですよ。合鍵あるんだし,戸締りだけちゃんとして帰ってくれたらいいですから」「そんなに僕に泊まってってほしいんですか? 先生って今まで、ロクな恋愛してこなかったんですね」 ……出た、久々のS発言! 別に彼にベッタリしたいわけじゃないんだけど……。「そっ……、そんなことは――」「ない」とは言い切れない。しばし自分の頭の中の引き出しをひっくり返し、私はこれまでの自分の恋愛を振り返ってみた。「……うん、確かにそうかも」 情けないことに、彼の指摘は思いっきり的(まと)を射(い)ていた。「原口さんの言う通りかも。今まで私、頑張って恋愛してきた気がするんです。『恋愛小説家なんだから、恋しなきゃ!』って。で、頑張ってロクでもない男につかまって失敗して」「あ……、当たってたんですね。悪気はなかったんです。すみません」「マズい」と思ったのか、彼は慌てて私に謝った。 悪態(あくたい)はついても、悪役にはなりきれない。そこが彼の憎めないところだ。「ううん、別に何とも思ってないですから。……まあ、十代の頃は別として、大人になってからホントに気心知れた相手と付き合ったのは原口さんが初めてかも。私って可愛げないし」 最後はもうほぼ自虐(じぎゃく)ぎみに言って、私は肩をすくめた。「僕はそんなことないと思いますけど……。〝可愛げない〟って、どんなところが?」 原口さんは首を傾げる。「だって、酒豪でしょ? 言いたいことズケズケ言うでしょ? それに甘え下手でしょ? 泣くことだってあんまりないし」 私は思い当たるフシを、指を折りながら挙げていった。酔ってしなだれかかることもない。男の人に甘えることもあまりない。モジモジもあまりしない。

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page4

     原口さんと交際するようになって、彼の私生活(プライベート)も少しずつ分かってきた。彼は運転免許証を持っていないため、車の運転ができない。通勤にも私のマンションに来る時にも、公共の交通機関を利用しているらしい。 もちろん、私とデートする時にも……。でも今までだって、車を運転できるような男性と交際したことはないので、私はそんなことちっとも気にならない。 そして、彼が一人暮らしをしているマンションは赤坂(あかさか)にある。お部屋は十五階建てマンションの五階にあるけれど、エレベーター付き。 出身は前にも聞いたけれど兵庫県(ひょうごけん)の南東部。でも神戸(こうべ)じゃない。どうりでたまに関西(かんさい)弁がポロっと出るわけだ。彼は大学進学を機に上京して来て、それ以来はなるべく関西弁を使わないように、極力(きょくりょく)標準語で話すようにしていたけど、それでも生まれついたネイティブな話し方は何かの拍子につい出てしまうものらしい。

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page3

    「まあ……、一応考えときます」 私自身も作家として、もっと広い世界を見てみたい。もっと幅広いジャンルにもチャレンジしてみたい。だから専属作家になろうとは思わない。……でも、まだ原口さん以外の編集者さんと組むのには不安がある。 まだ当分は、今の状態のままでいい。彼はいつも私の意志を尊重してくれるから、ムリに〝専属〟を押しつけるつもりは最初からなかったのだろう。「そうですか。まあ、最終的には先生のご意志に任せるので、ムリに『専属作家になれ』とは言いませんけど」「やっぱりね。あなたならきっとそう言うだろうと思ってました」「〝やっぱり〟って何が?」 自己完結で納得していると,すかさず原口さんからツッコミが入った。「ううん,何でもないです。――もう少ししたら、お店出ましょうか」 私達のお皿の中身は、どちらも残り少ない。コーヒーも飲み干してしまったし、あまり長居してしまうのはお店の迷惑になる。「そうですね……。じゃ、お会計は先生持ちで」「ええ~~!?」 私は形だけのブーイング。でも、これはこの人と付き合い始めてからはいつものことだ。「〝ええ~!?〟って何ですか。印税たくさん入ったんでしょ? 白々(しらじら)しいアピールはやめましょうよ」「……バレたか」 本当は最初から私がご馳走(ちそう)するつもりでいたのだ。冗談で言ったのだと、彼にはバッチリ見抜かれていた。でもこういう時、冷静に的確にツッコんでくれる。そんな彼が私は大好きだ。 ――何やかんやで私が支払いを済ませ、店を出るともう外は暗くなっている。「〝秋の日はつるべ落とし〟って言いますけど、このごろ日が暮れるの早いですねー」「ホントにね。っていうか、今どきの若い人はそんな言い回し使いませんよ。ナミ先生、さすがは作家さんですね」「……どういう意味?」 褒めているのかイヤミで言ったのか分からずに、私がキョトンとしていると。「ボキャブラリーが豊富っていう意味です」 とりあえず褒めているらしいと分かって、嬉しい反面ちょっとカチンときた。「もう! だったらストレートに褒めて下さいよ! ホンっトに素直じゃないんだから」 彼の愛情は分かりづらいから、誤解を招きやすい。でも私だけは、彼の言葉の裏側に潜む優しさをちゃんと理解してあげたいと思う。

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page2

    「でも最近、自分がやっと一人前の作家になったような気がしてきてます。私自身、本の売れ行きが予想をはるかに超えててビックリしちゃって。こないだ入った印税なんか、ゼロの数が多すぎて『これ、金額間違ってるんじゃない?』って思ったくらい」 運ばれてきたハヤシライスを食べながら、私は嬉しさを隠しきれずにそう言った。この話は大げさではなく、事実である。私の銀行口座の残高(ざんだか)は今、大変なことになっているのだ。万から上のケタが四ケタってどういうこと? ……みたいな。「それだけ印税入ってくるようになったら、もう専業作家になってもいい頃なんじゃないですか? 書くことに専念して」「えっ、専業?」「はい。人気作家になったら、他の出版社さんからも執筆依頼が来るようになります。先生は原稿を手書きするので、そうなると今まで以上に執筆時間を長めに確保する必要が出てきます」「はあ……」 原口さんの言いたいことは分かる。パソコン書きの作家さんなら、いくらでも執筆時間の都合はつけられる。――少なくとも、手書きの作家よりは。「これまで通り働きながら執筆活動を続けようと思ったら、睡眠時間を削(けず)らないといけなくなります。それじゃ先生、最悪の場合は体壊しますよ」 彼氏としても編集者としても、私のことを心配してくれているのは嬉しい。でも……。「それだけ心配してくれてるのはすごくありがたいんですけど。私、バイトは続けていきたいです。友達もいるし、作家と書店員を両立する上での役得もあるし」「先生の気持ちは分からなくもないですけど。無理はしてほしくない――」「大丈夫。執筆時間は何とか都合つけて頑張りますから」 彼の思いやりには感謝したい。でも、ちょっと心配しすぎな彼の言葉を遮って、私は彼を宥(なだ)めた。「そうですか? 分かりました。――この問題の解決策(さく)が、実は一つだけあるんですけど」「解決策って?」 私は食事の手を止め、彼に首を傾げてみせる。「先生に、我が洛陽社の専属作家になってもらうこと、です」 私は〝目からウロコ〟とばかりに目を瞠った。でも、言い出した当人の原口さんはあまり気が進まないようだ。「なるほど。……でも原口さん自身は、あんまり薦(すす)めたくないみたいですね」「はあ。僕としては、〝作家という職業は自由業だ〟と思ってるんで。先生にはいろいろな出

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page1

     ――私(あたし)と原口さんが付き合い始めてから二ヶ月半が過ぎ、季節は秋になった。 今日は土曜日で私のバイトもお休み。というわけで、原口さんと映画デートを楽しんでいる。「――ナミ先生、映画面白(おもしろ)かったですね」 シアターから出るなり、彼はほこほこ顔で観ていた映画の感想を漏らした。「うん。あたし原作も好きなんですけど、映画はまた違う面白さがありましたよね。脚本家さんのウデかなあ」「あと、監督(かんとく)さんの、ね」 私達の会話は、傍(はた)から見れば映画評論家(ひょうろんか)同士の会話みたいに聞こえるだろうか。――まあ、当たらずとも遠からずなのだけれど。 今日私達が観てきた映画は、私も本を出させてもらっていた〈ガーネット文庫〉の先輩作家さん・岸田(きしだ)

  • シャープペンシルより愛をこめて。   エピローグ Page3

    「――そうそう、第二号は西原先生が引き受けて下さいましたよ」「そうですか」 琴音先生とは一(ひと)悶着(もんちゃく)あったけど、これからもいいお友達だ。彼女にも新天地でいい仕事をしてほしいと思う。「じゃあ、第三号はまた私に任せてもらえませんか? テーマはもう決めてあるから」 次回作はウェディングプランナーをヒロインにした話。美加を取材した時から決めていたのだ。「いいでしょう。打ち合わせはまた後日改めて。――ただし、できればその服はやめてほしいですけど」「えっ、なんで!? 似合いませんか?」 私は不満を漏らした。これを選んでくれた由佳ちゃんには「可愛いよ」って言われたのに! 原口さんからは不評なの!? ところが、そうじゃなかった。「いえ、よくお似合いですよ。――ただ、他の男性がいる前でそういう刺激的な格好はしてほしくないな、と」「…………はあ。そうですか」 なんか意外。原口さん(この人)にもそんな、〝

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